新八に拒絶されたとき、自分の浅ましさを突きつけられた気がした。

 

本当はうすうす気づいていた。新八が、男経験があると。

あの時、半ばムリヤリ連れて帰ったとき、汚れた身体を清めてやろうとしたときの怯え方。

暴れようとして、でも身体が動かないらしくただ身体を震わせ懇願するよう銀時を見た。

白い肢体についた赤黒い痣は、新八の受けた酷い仕打ちを如実に表していた。

それは、決して愛された証などではなく――ただ、欲望を満たすための暴力だというのは、その身体を見れば誰でもわかるだろう。

顔をしかめた銀時にますます怯えを深くし、新八は小さな身体を更に縮こませて来るであろう罵声に耐えようとしていた。

そんな姿に鼻の奥がつんと痛くなって、銀時は乱暴に新八にお湯をかける。

小さな悲鳴は浴室に反響し、銀時の耳にも届いた。それでも銀時は手を止めようとはしなかった。

何で俺が泣かなきゃなんねえんだ、呟いた。

 

 

 

この子供が綺麗な生き物だ、と最初に気づいたのが自分ではなかったことに腹が立つ。

先に手折られてしまったそれは、下手に触ろうとするとおびえて身を縮こませ潤んだ黒い瞳を銀時から逸らした。

だから、少しだけ優しくした。傷つけやしないと、ただ触れるだけだと。

そうしたら、綺麗だけどあまり頭の良くない子供はだんだんと銀時に慣れてくれた。

本当に時たま、笑顔を見せてくれるようにもなった。正直ガッツポーズをとるほど嬉しかったのに。

・・・なのに。

拾われるんじゃなかった、一緒にいるんじゃなかった。

新八の一言一言は、銀時の心の奥の、一番柔らかな場所を切り裂いた。

 

 

 

「…酷い雨だな」

どうにかそれだけ言った。雨の降りしきる中膝を抱え、座り込んでいる子供。

少しだけ拾ったときよりも大きくなったその身体は、この腕にはもう余るだろうか?

それでも。

帰ってきたのだ、自分から。気まずい思いでもその足で。

新八、口の中だけで呟く。

その声が届いたのか、子供はゆっくりと垂れていた頭を上げた。メガネのない黒い瞳が銀時を見つめる。

やがて、新八は細い腕を自分から伸ばし、銀時の着物のすそを掴んだ。

初めて、だった。新八から手を伸ばしてきたのは。

「どうした?どこか痛いのか」

しゃがみこみ、新八と目線を合わせる。返事はなく、新八はただ小さく咽喉を鳴らした。

雨に濡れ、寒くて冷たくて声が出せないのかもしれない。銀時は新八の髪を撫で、少しでも体温を分け与えられたらとその痩せた身体を抱きしめた。

縋りつくように背に回された腕に力がなくて、銀時は更に新八を抱き込んだ。

 

「なぁ、俺今ここに落ちてんだ」

もう、駄目だ。放してやる気なんかなくなっちまった。例えお前の姉ちゃんが迎えに来たって、お前が行きたがったって、絶対に。

だってお前が帰ってきたから。今なら放してやれると思っていたのに、戻ってきたから。

「今度はお前が俺を拾ってくれよ」

微かに、けれど確かに頷いた新八を腕に抱き、銀時は眼を閉じた。

 

今はただ、この体温だけを感じていたかった。

 

 

 

 

ずっと拍手においてありました。読んでくださった方、ありがとう!

 

 

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