「あんたが先に死んだら、墓石にしょんべんでもかけてやりまさァ」

「上等だ、コラ」

歯をむいて不敵に笑うその人の凶悪な顔を、たまらなく綺麗だと想った。

 

「・・・暇でさァ」

ごろごろ、音がするようなだらけっぷりに土方は溜息をついた。

普段から勤勉とは言いがたい沖田だが、最近の怠けぶりは見てて腹が立つほどだ。

だったら、隊士たちに稽古でもつけてやれ、言いかけて止めた。

その後始末をさせられるのは十中八九己であろうと気付いたためだ。

沖田は確かに剣の腕では誰にも負けないが、精神面でまだ幼いところを残している。

まぁ、それは普段の行動を見ていればわかりすぎるほどわかることだが。

そう言えば近藤さんがいないな、と土方が視線を沖田から背けたときだった。

「おわっ」

がばり、まるでおんぶお化けのように背中に取り付かれた。もちろん、だらけていた男にだ。

細身とは言っても大の男に背中から。しかもいきなり抱きつかれて当然身体が傾いだ。

「何しやがんだ、どけ」

圧し掛かられるような形になり、どかそうとしたが沖田はじっと土方を見つめて動こうとしない。

「おい、」

「近藤さんばっかじゃなくて」

俺もみてくだせェ、珍しく真摯な表情が土方を射抜く。

「・・・はぁ?」

瞬きをした瞬間唇を塞がれ、土方の瞳孔は開ききった。

 

 

「・・・嫌がらせにも程があらァ」

そう捨て台詞を残した人はもういない。

大きな音を立てて障子を閉め、荒い足音を響かせて去っていった。

ごろん、沖田は痛む頬を庇いながら、畳の上を転がった。

「容赦ないんだから…子供で困りまさァ」

土方が聞いたら、誰がだと憤慨しそうな言葉を吐き、沖田は天井を見あげる。

じんじんと痺れる頬は痛いが、手加減はしてくれたようで歯には異常がない。

外では隊士たちの声が響き、それに呼応するように部屋が揺れた。

また誰かが、何かの拍子に柱にでも突っ込んだのだろう。

恐らくは、土方に怒鳴られて追いまわされて。

くく、咽喉から笑い声が漏れる。

 

「欲求不満、とか」

よっ、勢いをつけて身体を起こし、部屋から出る。

「誰か、相手しておくんなせェ!」

刀を構えながら隊士たちの中に飛び込んでいった。

逃げ惑う隊士たちの阿鼻叫喚の中、この中がやはり自分の居場所なのだと知った。

目の端に呆れたように笑うその人を見つけて、たまらなく安心できた。

 

飛び掛っていった自分を受け止め、いつものように怒鳴りつけてくる。

「殺す気かぁ!」

いつの間に抜いたのか、得物を手に沖田を睨みつける、鋭い黒曜石。

「あんたが先に死んだら、墓石にしょんべんでもかけてやりまさァ」

花なんて似合わない。朽ちていくだけのものなんて、やらない。

黒い瞳が怒りに煌めいた。本当に単純だ、咽喉だけで沖田は笑う。

「んだと、じゃあてめえにゃ野糞…」

売り言葉に買い言葉とばかりに、出かけた下品な言葉を、土方が飲み込んだ。

見れば、あまりに煩かったのかこちらに向かってくる局長の姿。

ち、舌打ちと共に収められる剣。構わず斬りかかってやりたくなる。

「近藤さん」

「賑やかだなぁ」

へらへらと近づく男は、気付いているのだろうか。この醜い思いに。

お開きとばかりにわらわらと散っていく隊士たちを他所に、近藤が土方の肩を叩く。

ほら、もうそれだけで腸が煮えくり返って煮詰まりそうだ。

やがては黒く焦げてしまうのだろう。そして、その焦げはこの身から取れなくなって。

くるり、背を向けて歩き出す。声をかけられた気もしたが、構わず部屋に戻った。

先ほどまでと同じように床に寝そべり天井を見上げた。

 

「・・・絶対、しょんべんかけてやる」

誰にともなく呟いて、アイマスクをかけた。すぐに睡魔は襲ってくるだろう。

 

まーきんぐ、ってやつでさァ。

 

 

 

 

 

 

しょんべんとか糞とか・・・下品でホンマスンまっせん