切ない20の御題
01.届かない想い
02.微かな足音
03.大きな背中
04.遠い空
05.ヒコウキ雲
06.二人で見た夕焼
07.明日
08.隣にいるのは別の女性
09.残された温もり
10.想いを残して
11.それでも好き
12.泡沫の愛
13.届きそうで、届かない
14.ちっぽけな僕
15.雨と涙と
16.もう迷わない
17.あと一歩
18.愛と哀
19.諦め切れない
20.この空の下、君と永遠に
名前を呼ばれるのは嬉しかった。その声が好きだった。
低目の響く声は、どこか優しくて。ここにいてもいいのだと勘違いさせられた。
本当は、最初っからわかっていたのだけれど。
初恋なんてもの、している暇はなかった。
父親が死んでからというもの、それこそ道場を守るために生きてきた。
幾度も投げ出してしまいたいと思ったけれど、女である姉が自分よりも必死になっているのにできるわけがなかった。
だからってこの結果はあんまりだろう。
「新八ぃ」
少し間延びした、眠そうな声で男は新八を呼ぶ。視線を向ければこれまた眠そうな顔でこちらを見ていた。
おいでおいでと手が動くのをぼんやりと見て我に返り、呆けていたのをごまかすようにわざと呆れた声を上げる。
「今頃起きたんですか?」
「昨日遅かったからね」
悪びれた様子もなく、銀時は答える。恐らく、いや絶対に新八の想いに気づくことなく。
高鳴る心音と、赤くなりそうな顔をどうにか抑えて、新八は銀時の元へ近づいた。ぎりぎり手が届かないところなのはせめてもの抵抗だ。
今だ万年床に寝転がる男は、見下ろしてくる従業員に向かって手を伸ばす。
「起してぇ」
どくん、今度こそごまかせなかった。
それでも精一杯の負けん気を総動員して新八は告げる。声が震えないように、それだけを祈りながら。
「甘ったれないでください」
目を合わせないようにしながら踵を返し、ぴしゃりと襖を閉める。冷たく思ってくれていい、今はその場から逃げたかった。
がくがくと震えだした足をゆっくり折り曲げながら、その場に膝をつく。
銀時は絶対に二度寝を決め込むだろうから、この襖があけられるのはきっと、もっと先だ。
襖に触れないように、銀時が不審に思わないように。
ただそれだけを上手く働かない、頭で願った。
まったく、甘く見られたもんだ。
笑い出しそうになる己の口端をぎゅっとつねって、銀時は声を我慢する。
襖一枚隔てた場所に、あの鈍感な子供がまだいるのだから。
笑いの衝動をどうにかやり過ごし、銀時は煎餅布団に再び寝転がった。
名前を呼ばれるのは嬉しかった。その声が好きだった。
高目の柔らかい声は、まだ少年の域を脱していない。それでも追い詰めるのに躊躇はなかった。
―――お前の居場所はここしかないのだと。
復帰第一作目がこれか…薄暗っ
お互いに届かない想いってことで。短いのは久しぶりに文章書いたからってことにしといてやってください