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トシ受けで十のお題(続きもの)

 

1.死ぬなと言う言葉の重さ

2.眠った彼とその体温

3.そろそろいいですか?

4.あの時笑っていた理由

5.それでも生き抜いてほしいと思うのです

6.何を失っても守りたいものが

7.過去が過去である限り

8.辛くて悲しくて、それでも生きてきた

9.その手を握り返してもいいのだろうか 

10.愛してる、言葉は空に浮かんで溶けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.死ぬなと言う言葉の重さ

 

死ぬのより生きるほうが難しい。そんなの誰だって知っている。

自分の身体から大量に失われていく血液を見つめながら、土方はぼんやり思った。

 

別に、いつ死んでもいいなんて思っていなかった。

けれど、いざ死が眼の前に迫ると、やはり少しだけ恐怖を感じる。

重力に沿い崩折れた土方を、がっしりとした腕が抱きとめる。痛みは感じなかった。

悪ィ、無意識に苦笑のような笑みを浮かべた土方の手は、やはり暖かいものに包まれていて。

それが、自分の戦友である近藤のものだと、その時ようやく土方は気付いた。

血塗れの土方を抱きしめながら悲鳴のような声を上げながら。

大丈夫だ、傷は浅いぞ、しっかりしろ。

同じ言葉ばかり繰り返す近藤を、かすれはじめた視界で捕らえる。

近藤の姿だって、自分とたいして変わらないくせに。少しだけ可笑しく思った。

安心させてやりたいのに、痛みなど感じていないのに、その手を握り返してやりたいのに。

声も出なければ、力も入らない。自分の手が段々と冷たくなっていくのすらよくわからなかった。

ごめん、少しだけだから。

少しだけ眠らせてくれよ、起きたら何でも聞いてやるから。

死ぬな、トシ。

叫ぶ近藤の悲痛な声を聞きながら、土方は目を閉じた。

 

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2.眠った彼とその体温

 

色のない顔で眠る彼は、確かに生きているのに。

 

屯所に意識を失った土方を運び込み、攫うように医者を連行してきて。

治療を終えた医者を、助かるんだろうな、真選組の面々で脅すように詰め寄った。

初老の医者は、生きているのが不思議なくらいだ、と少々呆れ顔で肩を竦めただけだった。

それから数日。

昏々と土方は眠り続けている。

反対に近藤は眠れぬ日々を過ごしていた。

 

「俺が見てますから」

そう気遣ってくれる沖田や山崎、隊士たちに首を振り続け、もう何日たっただろう。

眠ってしまったら、その間に土方が消えてしまうのではないかと怖かった。

かすかな呼吸がなければ、死体と見紛うほどその顔色は白くて。

一時とおかず、呼吸と体温を確かめるために近藤は土方に触れ続けた。

血塗れだった手は、もう綺麗に清められているのに。

命を奪うほど流れ続けていた傷口からの出血は、治療によって止まっているのに。

死ぬな、と。そう言った自分の言葉を守るためだけに、土方は此処に存在してくれている感が拭えなかった。

ごめんな、近藤は呟く。

お前、満足そうだったのにな。

倒れたときの土方は、確かに笑っていたのだ。

まるで、もういい、と。自分の役目はこれで終ったと。

 

土方の、こころなしか赤味を増した頬に触れる。

怪我や病気のときに熱が出るのは、身体が生きるために戦っているからだと聞いたことがある。

少しだけ上がったその体温が、たまらなくいとおしかった。

 

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3.そろそろいいですか?

 

あんたら、ずるいでさァ。

 

そのとき沖田は、いつものように敵を斬り捨てていた。

たいした連中ではなかったから、あっさりと終れるだろう。真選組の誰もがそう信じて疑わなかった。

近藤の、土方を呼び続ける悲痛な声を聞いても、信じられなかった。

驚いた。

返り血で濡れることはあっても、己の流した血で真っ赤に染まる土方を見て。

血を流しすぎたのか、赤く汚れていない箇所は蝋のように白くなっていた。

 

何ですかィ、あんた。

死んじまったんですかィ。

妙に冷静な頭の中で、ただ、そう思った。

 

土方はきっと、近藤のためなら死ねるだろう。

近藤はきっと、土方のために生きるだろう。

そう、知っていたから。だから。

土方が斬られたのは、近藤を庇うためだったと聞いて、少しも違和感がなかったから。

 

あんたら、ずるいでさァ。俺たちだってあんたらに命預けてるってのに。

一人のためだけに、その命までも操れる彼を憎らしく思った。

終らせるなんて許さない。ちったあこっちも見やがれってんだ。

心配したのが一人だけだと思っているのか。胸が潰れるような思いをしたものが、何人いたと思っている。

怒鳴りつけたいのをどうにか抑え、沖田は小さく毒づいた。

 

縁側に控えたまま、すぅ、大きく息を吸って。

 

目を覚ましたらしい土方を涙声で呼ぶ、近藤の嬉しそうな声を聞きながら。

盛り上がってるとこ悪ィんですがそろそろいいですかィ?

沖田は障子越しに声をかけた。

 

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4.あの時笑っていた理由

 

ゆっくりゆっくりと開く黒い瞳に、腰が抜けるほど安堵した。

 

土方の上気した頬に、そっとそっと近藤は触れていた。

時折その手は髪を撫でたり、鼓動を確認するかのように緩やかに上下する胸に当てられた。

もう日付を数えるのはやめた。

何日目、そう考えるほど土方は目を覚ましてくれないような気がしたから。

細くなってしまった指に触れる。刀が当たる場所に出来た胼胝はそのままなのが余計に悲しかった。

このままでは遠からず、土方は近藤の元から去ってしまう。

身体が弱っているときほど、必要な栄養が摂取できないせいで。

想像が現実になってしまうのが、何よりも恐ろしかった。

土方が目を覚ますなら、悪魔に魂を売り渡したっていい、そうとまで考えた。

 

そんな近藤の思いを聞き届けてくれたのは、神か悪魔か。

それからそう経たないうちに、土方はゆっくりとその黒い瞳を開いたのだ。

傷に触れないよう、それでもしがみつくようにして泣く近藤を、その目に映して。

 

ああ、もういいと近藤は思った。

斬られて近藤の腕に倒れこんできたとき確かに笑っていたけれど、どうでもいい、そんなもの。

もういい、聞かないから。庇った理由も、笑った理由も。

だってお前は此処にいるだろう?もうどこにもいかないだろう?

だったら、理由がどうでも関係ない。だから俺も謝らない。礼も言わない。

庇ってくれてすまなかった、ありがとう。何度も出かかった言葉を胸の奥で飲み込む。

それを聞いたら、土方はきっと困ったように謝罪するだろうから。余計なことをした、と自嘲するだろうから。

半分閉じたまま、潤んだ黒い瞳は近藤を映す。

まだ、意識ははっきりしていないのだろう。何日も眠っていたのだ、当たり前だ。

トシ、名前を呼んだ。

帰ってきてくれてありがとう、近藤は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら笑った。

土方はそれに反応するかのように、黒い瞳を一つ、瞬かせた。

 

 

理由よりも何よりも、今ここにいる彼だけが欲しかった。

 

 

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5.それでも生き抜いてほしいと思うのです

 

やっと眠れる。

 

土方が目を覚ました、そう聞かされた隊士たちは、歓喜の咆哮を上げた。

あの人が死ぬわけない、そう信じてはいたが容態はけして楽観視できるものではなかったから。

すぐにでもと部屋に駆けつけようとした隊士たちを、山崎は止めた。

まだ目を覚ましたばかりだし、こんなに大勢で行ったらあの人を疲労させるだけだからと。

それもそうか、拍子抜けするほどあっさりと全員が納得し、もう少し落ち着いてから宴を開くと決めて解散した。

安堵した表情を隠そうともせず散っていく隊士たちを横目に、山崎はその場所から動かなかった。

 

山崎は、土方が斬られるところを目の前で見た一人だった。

近藤の背後から、瀕死の状態だったはずの敵の一人が忍び寄ってきて、刀を振り上げるのが見えた。

局長危ない、そう言葉に出来たのかどうか。

気付けば、血を噴出していたのは、土方だった。

 

あそこで自分は何をしていたのだと山崎は唇を噛み締める。

本当なら、局長を庇って斬られるべきは、己であるべきだったのだ。

局長は勿論のこと副長である土方に何かあったら、真選組はお終いだとわかっているのに。

足が、その場所に張り付いてしまったかのように動けなかった。

 

目を覚ましてくれてよかった。心からそう思う。

元気になったらまた、癇癪もちの土方は、隊士たちに対して言いがかりをつけては刀を振り回し、

ミントンが気に食わないとか顔が気に食わない、無駄口を叩いたと不条理に殴られる日が続くだろうが。

もしかしたらあの人がいないほうが、俺たちはずっと平和に日常を過ごせるのかもしれないが。

 

それでも、あんな思いは二度としたくない。きっとそれが、真選組隊士の願い。

 

 

今日はきっと、全員が熟睡できるだろう。

 

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6.何を失っても守りたいものが

 

自分がいなくても笑っている近藤は容易に頭に浮かぶが、

土方には、近藤がいなくても生きている自分が想像できなかった。

 

自己犠牲に酔っているわけではない。

けれど、近藤がいなくなるくらいなら自分が、と思ってしまったのは否めない。

勿論自分の命と近藤の命は比べられるものではない、そのくらいはわかっているが。

あんたがいたから、俺は此処まで来たんだ。

 

俺がいなくたってあんたはたくましく生きていくだろう。

嫁を娶り、子供を作り。この世界で存在していけるだろう。

でも、俺は違うから。己を卑下する趣味はあいにく持ち合わせていないが、それは真実だから。

だったら、あんたが残った方がずっと、きっといい。

そう思っただけだったのに。

あんたには笑っていて欲しかった、けど。

今、近藤を泣かせているのは、紛れもなく自分だとぼんやりした土方の頭でもわかった。

失いたくないから、守りたいから。

そのためだったら自分の何を失ってもいいと思った。

だから、あんたの前に出た。死ぬと覚悟したわけでなく身体が動いただけだった。

命を投げ出すのは、そんなにたいしたことじゃない。

・・・仕方ないじゃないか。

 

 

だって俺は、それしか持っていないから。

だからどうか、泣かないでくれ。

 

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7.過去が過去である限り

 

どんなに願っても戻れない。

 

あの頃は良かったな、中々具合の良くならない土方に語りかける。

死にかけたのだ、当たり前だ。意識が戻っていることすらおかしいと医者は言っていた。

近藤さんの声に呼ばれたんでしょうな。

きっと気を使ってくれたのだろうが、そう言った医者の言葉は近藤の胸に刺さった。

 

熱の下がらない手をそっと握る。昔はもっと白くて柔らかかった。

もっと全開の笑顔を見せてくれていた。

いつからだったろう、お前が一歩引いて歩き出したのは。

大将と同じ位置にいるわけにゃいかねぇだろ。問いただした近藤に返って来たのはそんな、最もな言葉。

上とか下とか、そんなの関係ないだろ、そう言ったら燃えるような目で睨まれた。

マジで言ってんなら今すぐ俺は下りるぜ。

かしゃん、政府から支給された刀を放り投げた土方は確かに本気だった。

 

医者の言ったとおり、自分の声が届いているのなら、聞こえているのなら。

せめて楽しかった頃の話をしてやりたかった。笑えていた頃の土方を思い出して欲しかった。

なあ、近藤はさらに声を掛ける。

俺とお前と総悟とで、ずっと木刀を振ってりゃあ良かったのかな。

お前も総悟も昔から負けず嫌いだったよな、毎日喧嘩をしては服を破いて母君に怒られていたっけ。

怪我くらいはしょっちゅうだったが、命の心配などせずに笑いあっていられた頃。

 

後悔しているわけではないけれど。

ぽたり、近藤の目からひとつ水滴が落ちるのを、うっすらと開いた黒い瞳は映していた。

 

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8.辛くて悲しくて、それでも生きてきた

 

俺たちが、あの人を。

 

戦いの中に真選組は生きている。勿論勝つのが前提だが、時にやはり勝てない場合もある。

そんなときは少しだけ運の悪かったもの、ほんの少し弱気になったものが犠牲になっていった。

仇をとってやろう、あいつの分まで真選組を盛りたててやろう。

そう、前向きに思えていたはずだった。例えそれが、局長や副長であったとしても。

 

確かに悔しくて悲しくて、辛かった。

同じ釜の飯を食った仲間だ、当たり前だ。

それでも、生きてきた。真選組という枠組みは、強固な絆で結ばれていると信じられた。

人と人のつながりで、真選組は出来上がっていたのだから。

なのに、今回はどうだ。誰もが仇をうとうとも、腑抜けた奴らの尻を叩こうともしなかった。

皆が皆、打ちひしがれたように医者の言葉を待ち続けた。治療が終っても、誰も声を上げなかった。

唯一いつもと変わらないであろうと思われた沖田は、しばらく姿をくらましてしまった。

 

考えたら当たり前だ、だって今までその率先に立っていたのは土方であったのだから。

泣いている暇があったら戦え。お前らが泣いてりゃ死んだやつは浮かばれんのかよ。

鬼、と称されるあの人は容赦なく、仲間を立ち上がらせた。

それが間違っていたとは思わない。でも。その影で、あの人は泣けたのだろうか。

誰もが悲しみに沈んだ所為で、自分だけは泣けなかったのではないか。

それが、副長である己の仕事だ、と。

 

だとしたら、あの人に鬼であることを強要したのは、俺たち真選組ではないのか。

 

辛くても、悲しくても、鬼であり続けるために。

それでも生きてきたあの人を・・・まだ、休ませてやるわけにはいかないのだ。

真選組のために、生きていてもらわなければ、きっと終ってしまう。

局長は情に深すぎる人だから、土方さんがいなければきっと。

 

だから、ごめんなさい。

生きていてもらわなきゃ困るんです。

―――あなたを、死なせてあげるわけにはいかないんです。

 

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9.その手を握り返してもいいのだろうか

 

行くか?そう手を伸ばしてくれたのはアンタだったァじゃないか。

来い、ではなく。いつでもその手を振り払って逃げられるように少しも力を込めずに。

 

なんで、そんな顔で俺を見るんでさァ。いつもみたく不敵な顔で馬鹿にしたように、笑ってくだせェよ。

驚いたような、困ったような。総悟、といつもより少しだけかすれた声で、俺を呼ぶ。

副長の座が欲しい訳じゃない。俺が本当に欲しいのは――

 

土方さんは、アンタが好きなんでさぁ。

そう近藤さんに言ってやった。そうか、とあの人は答えただけだった。

俺は、あの人が好きなんでさぁ。

そう言った。今度はすまねぇ、と返ってきた。

どういう意味なのかなんて聞き返す気は無かった。ただ。

このまま、諦めるつもりなんて爪の先ほども無かったから。だから。

俺、手を放すつもりないですから。

宣戦布告、ではなくて。これは、事実。

そう言ったら近藤さんはやはり、そうか、とだけ言った。

 

あの時。手を伸ばされたということは、共に行ってもいいという許可を貰ったのだ。

今更止めた、といったってそれは許さない。

一人で楽になろうなんて逃げようなんて許さない。

もしアンタが進むのに疲れたのなら、自分が手を握ったまま行きたい所まで連れて行くから。

だからそんな、困った顔はしないでくだせィ。

子供をあやすように、頭を撫でたりしないで下さい。

……コレは涙じゃなくて鼻水だって、さっきから言ってるでしょうが。

 

頭に触れていた手を取って、胸に握りこんだ。細くなってしまった指が痛かった。

怖い、と初めて思った。

総悟、またあの人は俺の名を呼んだ。悪い、と。確かに土方さんはそう言った。

いつもの憎まれ口はどうしても出てこなかった。ただ、胸の中の手を放すまいと力を込めた。

 

どうかこの手は伸ばしたままでいて。

今度はいつだって、躊躇わず俺から手を掴みにいくから。

 

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10.愛してる、言葉は空に浮かんで溶けた

 

言うつもりもなかったけれど。

 

緊急の警備命令が下ったとき、近藤は躊躇した。理由は勿論土方だ。

一人で歩ける程度には回復したものの、まだ傷による熱も下がらず、気だるげに床に就いていることのほうが多い。

そんな土方を一人屯所に置いて、仕事に赴けるはずはなかった。

しかし、先々から攘夷派より狙われていると騒ぎ立てる幕僚たちは、早急な真選組の出動を命令した。

それならば、誰か腕のたつものを残そうと思ったが、それも却下された。

・・・却下したのは他ならぬ土方だったが。

仕事だろうが、手ぇ抜くんじゃねぇ。

そう潤んだ、けれど鋭い瞳で近藤を見据えて。

そうか、近藤は溜息と共に頷いた。

トシ、帰ってきたら話をしよう。大事な話だ。

今度は土方は頷いた。帰りにタバコ買ってきてくれ、土方らしい台詞に近藤は少し呆れたように笑った。

 

 

近藤たちが出かけていくのを布団の中から見送って、二時ほど経ったろうか。

まどろんでいた土方は、急な寒気に怖気たった。

修羅場を幾度も潜り抜けてきた土方だったから感じ取れた殺気。

布団から身を起こしたとき、目の前の障子がぱぁん、音をたてて開かれた。

そこには、真選組が追い続けていた男が立っている。

高杉、土方はその男の名前を呼んだ。

 

「お久しぶりだねぇ、土方さん」

にやり、口角を上げて高杉は笑う。その包帯で隠されていない、片方の瞳は冷たいままで。

「真選組は出払ってるって聞いてたんだけどねぇ。こりゃあ思いがけない拾いもんだ」

庭から、土足のまま上がりこんでくる高杉に、土方は尻で擦り下がった。

壁に立てかけてある刀を視界に捕らえ、手を伸ばす。

「何しにきやがった」

いくら出払っているとはいえ、入り口に警備の者がいたはずだ。

そう思い、高杉へと暗闇に慣れつつある目をやれば、男が持っている刀からは未だ血が滴っていて。

ひゅっと土方は息を呑んだ。

「ちょっとね。試し斬り」

新しいんだよ、コレ。いい刀でしょ。じりじりと近づいてくる高杉に、土方の背を冷たい汗が伝った。

悪いが殺されてやる気はねぇ。力の入らない腕で、それでも刀を握る。

こんなところで死のうものなら、一生――後悔するから。

そんなの、許せない。

一度捨て損ねた命だ、死神にすら見放されたのだ。

だったら見苦しく生きてみせようじゃねェか。鬼と呼ばれようが構わない。

振りかぶられた刀を受け流し、土方は庭へ転がり出た。

「っ…」

今ので開いたか、舌打ちをした。開いただろう傷が痛んだが、構わず体勢を立て直す。

じわじわと包帯に浸透してきた血が、土方の寝衣を汚した。

 

月明かりの下、それを見た高杉は一度目を見張り、そして――嬉しそうに口角を上げた。

 

 

近藤さん、小さく名前を呼ぶ。

総悟、山崎。真選組の面々の名を一人一人口にした。

月明かりに照らされた高杉の顔が、妙に白くこの世のものではないかのように見える。

ちき、音を立てて縁側に立った高杉が、刀を構えた。

 

 

斬りかかってくる男を見据えながら、土方は笑った。

 

 

 

 

 

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